観劇・映画・ドラマ、ボルダリング、シーカヤック、健康法など、好きなこと、実践していること、興味のあることを徒然なるままに書いてみようと思います。
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 東京シェイクスピアカンパニー「長い長い夢のあとに」
2012年12月02日 (日) | 編集 |
nagai

 11月29日(木)、江戸馨さん率いる東京シェイクスピアカンパニーの「長い長い夢のあとに」を池袋シアターグリーンで観た。この演目はシェイクスピアの「ヘンリー四世第一部」「ヘンリー四世第二部」「ヘンリー五世」をベースに、現代劇の要素も入れた脚本を江戸さんがオリジナルで創作したもの。本でよく上演されるシェイクスピア劇はほとんど見ているのだが、「ヘンリー四世」「ヘンリー五世」は見たことがなく、この二人についての予備知識も全くなかったので、イギリスの歴史を知るうえでも興味深い内容だった。

 冒頭、10名位の男女が全員白い服を来て登場し、散歩しながらその中の一人の男が持つ帽子について議論する。本家の中年男が持っている緑色の帽子が似合うのに合わないの、分家の老人の方が似合うのではないか、中年の夫婦には子供がいないのだから、いずれその帽子は分家の二人の兄弟にわたるだろうといった内容が延々と語られるので、「シェイクスピアを現代劇に翻案したものなのか?」と少々不安に、かつ、ちょっとがっかり(江戸さん、ごめんなさい)したのだが、やがてその帽子が「王冠」の比喩であることが明らかになる。場面が転換すると、最初に帽子を持っていた「中年の本家の男」から無理やり帽子を奪い取った「分家の老人」がヘンリー四世として登場するからだ。

 ヘンリー四世は王冠を手にしてからよく眠れず、健康を害している。彼が王になるとき支援してくれた
ノーサンバランド伯やその息子ヘンリー・パーシー(ホットスパー)を冷遇したために恨まれ、いまにも反乱が起きそうなのだが、長男のハル王子は城を出て、大酒呑みの老騎士フォルスタッフや悪友たちと放蕩三昧。ハル王子がホットスパーのように立派であったらどんなによかったかと嘆く。だが、いよいよパーシー父子が攻めてくると、ハル王子はすぐさま戦場に馳せ参じ、騎士の誉高かったホット・パーシーを討ち果たして、名君ヘンリー五世となっていくのだ。

 舞台はシェイクスピアの描く15世紀のランカスター朝と帽子を巡って親戚同士が争う現代を行き来する。そして最後の場面は現代。長い間、父親が自分たち兄弟より帽子を大事にすることを嫌っていた長男は言う。「僕はこの帽子をかぶるよ。だって、これは父さんが大事にしてきた帽子なんだから」と。

 見終わった時には、王家の人間でなくても、「緑の帽子」のようなものを誰もが追いかけたり、苦しいのに抱え続けたりしながら生きているのに気づかされる。完成度の高い脚本、小さな劇場、手の届くところにいるよく訓練された役者たちと、知的な刺激のある時間を堪能できた。

 私は東京シェイクスピアカンパニーの朗読劇をこれまで数回は見ていると思う。朗読には朗読の魅力があるのだが、江戸さんのテイストが加えられた舞台はまた違った楽しみがある。つかさまりさんのように朗読でお馴染みの役者さんが演じる姿を見られるのも嬉しいが、いつものと違った役者が多数参加していて、新しい発見があるのも面白い。役者の顔ぶれをご覧になりたい方は下記をクリックして下さい。

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 今回よかったと思ったのは、まずホット・スパーを念じたStudioLifeの緒方和也さん。StudioLifeは宝塚の男版のような容姿端麗の男性だけの劇団で、以前加藤健一事務所で「モスクワからの退却」に山本芳樹さんが出ているのを見て、いい役者だなと思ったことがある。緒方さんも舞台俳優としてよく訓練された人という印象で、仁が役に合っていた。

 フォルスタッフを演じていたザ!クレロ(この劇団を見たことはないが)のかなやてきゆきさん。この芝居、実はランカスター朝の部分はフォルスタッフが主役といっても過言でないくらいセリフが多く、要となる役なのだが、いい声が朗々と響き、立派に大役を果たしていたと思う。

ハル王子の田山楽さん。茶目っ気があって放蕩してるんだけど、反乱の知らせを聞いてパッと切り替わるところが上手かった。最後にフォルスタッフに「私は長い長い夢を見ていた。私はおまえを知らない」というようなセリフがあった、「あ、これがタイトルになってるのね」と納得。名君と言われる人はそういう一面を併せ持っているものだ。

 余談だが、この劇の登場人物たちは現代人からするといずれも早逝している。ヘンリー四世に王冠(帽子)を奪われたリチャード2世は33歳。彼は幽閉されて餓死したらしい。ヘンリー四世は46歳。劇では老人みたいだが、現代なら働き盛りだ。ヘンリー五世は34歳。本人はもっと長生きするつもりでフランスを攻め、たくさん領地を奪って王位継承権まで得たのに、あっけなく赤痢で死んでしまった。ヘンリー・パーシー父子の反乱時、つまり劇で見た王子はなんと16歳の少年だったのだ。そんなに早く死ぬなら、若いときに遊んでおいてよかったねと言ってあげたい。そして、劇ではハル王子と同年代に見えるけど、ホットスパーは37歳から39歳くらいで、叔父と甥くらい年が離れている。

 この時代は王家や貴族に生まれても、権力争いや流行病で50歳まで生きられない人が多い。その分結婚も早く、リチャード2世の再婚相手は7歳だったフランス王シャルル6世の娘、イザベル・ド・ヴァロワである。さすがに子供すぎてリチャードは子孫を残せなかった。毎日おいしいものを食べて、ベッドの上で天寿を全うできる現代の日本人の多くは、当時の王侯貴族が願っても得られなかった幸せを既に手中にしているのだ。
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